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夢街道
スズラン灯
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
スズラン灯
2010/12/01
夢街道
元町通にスズラン灯がお目見えするのは大正一五年(一九二六)である。
道路舗装につづくスズラン灯の導入には、商店街として将来への思い入れがあった。西の入口に三越百貨店の進出が予定され、東の入口には四丁目に店を構えていた大丸呉服店が大型化して店を構える計画だ。その間をつなぐ元町商店街が、来街者への魅力を維持・創造するにはどうするか。
地元資本と地元店舗が、百貨店という縦型に売り場を構成する新しい業態に挑戦した元町デパートメントは一年足らずで廃業に追い込まれただけに、当時の商店街にとっては存在感維持のための対策が大きな課題になっていた。
話題になったのは大正一三年(一九二四)一〇月一四日、京都寺町に登場した武田五一が電力会社からの依頼で考案したスズラン灯だ。東大卒の武田五一(一八七二~一九三八)は工科大学助教授で図学を担当、一九〇一年ヨーロッパ留学、名古屋高工校長から創立委員であった京大建築学科教授になり、同本館設計等のほか国会議事堂の設計にも関与、法隆寺修理など古建築の研究保存にも参与した当時の関西では代表的な建築家である。
雨天への対応策はないが、足元はアスファルト舗装ができている。スズラン灯は、商店街に夜のにぎわいを演出してくれる。
商店街から、京都寺町に完成したばかりのスズラン灯を視察に行き、議論を重ねて導入の方針がかたまった。作る以上は元町商店街の名前に恥じない、思い切ってハイカラなものにしたい。制作を誰に依頼するか。武田五一に比肩する作者を地元に求め、デザインを神戸高工の校長だった古宇田実(一八七九~一九六五)に依頼した。古宇田実も東大から建築装飾研究のため欧米留学の後、神戸高等工業学校(神戸大学工学部)の設立に伴い同校教授、二代目校長という七才年上の武田五一の後を歩む経歴の持ち主であった。新開地の松竹座、神戸商工会議所の意匠も担当、法隆寺国宝保存工事事務所長も兼務しているから、仕事上の関係もあって武田の推薦で古宇田に依頼することになったのかも知れない。
スズラン灯一基二百五十円と教えられて、商店街はたまげたようだ。一〇米間隔で二〇〇本設置する大事業である。一部に反対する店主もあったが、各戸間口一尺(三十センチ)に付き七円を基準に、一〇カ月払いで負担した。
翌一五年、元町商店街はスズラン灯完工記念の大売り出しを行った。
雨の元町 鈴蘭灯濡れて光った アスファルト・・・
雨も味方にしたスズラン灯は昭和十七年、第二次世界大戦戦力増強のための供出でその姿を消すまで、アスファルト舗装との競演で、神戸市民のシンボルとして親しまれた。
昭和初年の元町夜景(「こうべ元町100年」より)
岩田照彦
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